シナリオ作成(5)

”水晶の塔がその姿を現した。それは星にまで届かせようとして、伸ばした触角のように今まさに天を突き上げた。”塔の根の門が開けば、そこには影絵のようにゆらゆら揺れながら何かが奥からやって来たが、やがて固まったひとつの形となった。それは大きなマン…

映画の製作(2) シナリオ作成(4)

その廊下の右側のガラス戸が1つ横に開くと、中から大きなビニール袋を抱えた目白依子が出てきた。透明なビニール袋の中には色とりどりのスナック菓子の袋が押し込まれていた。目白依子は、僕達を先導していた矢島幸恵に目で合図すると、僕達の脇を抜け、パ…

映画の製作(2) シナリオ作成(3)

「きみ、栗本さんところの息子さんなんですってね。」"山椒魚"から"矢島幸恵の兄"となった彼はそう言うと、両手にかかえているゲーム機を先頭に出てきた男の子に放った。「そら!、隆三、続きは家のほうで遊びな。」それをキャッチした子供達はまた「わっ」…

映画の製作(2) シナリオ作成(2)

この季節にどこかでお祭りをやっているようだ。 すると遠くに聞こえる祭囃子に急き立てられるかのように彼女達の歩調が早まった。それは祭りに急ぐようでも、祭りから逃げているようにも思えた。 その日訪れた矢島幸恵の家は僕には新鮮な驚きに溢れていた。…

映画の製作(2) シナリオ作成(1)

その頃、つまり高校三年の春、僕の家族は勝沼町からは笛吹川という名前の大きな川を越えた西側の町に住んでいた。 田舎町ではそんな風に1つ川を越えると、まるで別世界のようにそれぞれの生活圏が別れたものだ。 それで僕には同じ町に育ったはずの栗本英樹…

映画の製作(1) 原作交渉(2)

僕たちが注文したコーヒーが運ばれてきてテーブルに置かれた。 2人の女の子は前から置かれていたレモンスカッシュをストローで一口飲んだ。その少し間が空いた後、「高間君、ヨリちゃんが書いたあの話は私も読んでいる。」そう言ったのは矢島幸恵だった。「…

映画の製作(1) 原作交渉(1)

パスケースの生徒手帳の学校名には「立川高校」とあった。定期は「国立〜立川」間だった。「目白」という性はこちらでは聞きなじみがなかったから、地元出身ではないのだろうとは思ってはいた。同級生を装いその手帳に記載された自宅に電話してみると、落ち…

高間真一(4)

物語の題名は「ねじ巻人形の冒険」と書かれていた。"天上には銀色の影をした結び目が保管されていてそれが解かれると天界が回転を始めた。" そんな文章で物語は始まっていた。"次に鼠たちが騒ぎはじめた。水晶の塔に黄泉の影があらわれた。ねじ巻人形を連れ…

高間真一(3)

あの日のことは今でも良く覚えている。僕と英樹は、5月の連休を利用して映画で撮りたい風景を探し歩いて、しかし大した収穫もなくいつもの坂道に戻ってきた所だった。坂道から脇に外れた菜の花が咲いているなだらかな斜面に寝転んでいた。僕たちは自分達の…

高間真一(2)

僕と英樹2人の共通の趣味と言えば「映画」だった。 結局2人ともそれだけ孤独だったんだろう。映画は1人でも楽しむことが出来る。僕たちが高校生だった頃、甲府の名画座では「明日に向かって撃て!」だとか「マッシュ」それに「時計仕掛けのオレンジ」をや…

高間真一(1)

あれはまるで葡萄の魔王ね、と、依子が言った。葡萄の魔王で,名前はサミュエル、アダムが食べた葡萄の木を植えたのよ。目的の谷底まで来ると、もう月明かりさえ届かない暗闇で、ぼくたちは用意していた懐中電灯で獣道をすすんだ。そして、その場所についた…

依子(2) 捜査(33)

部屋の中でピアノの曲が流れていた。枯れ葉が1枚1枚落ちる音のような独特の曲だった。エリック・サティの曲だ。依子はその曲が使われた古いフランス映画を見たことがあった。ピアノの曲が突然途切れた。それでそのピアノが誰かが演奏していたことが分かっ…

依子(2) 捜査(32)

依子はエレベータに向かった。依子がエレベータに 乗り込んだ時、中には一人の男がいた。その男は地下駐車場から乗ってきたに違いなかった。乗り込む間、ドア「開」のスイッチを押していた。依子は軽く会釈した。依子が乗り込み「30F」のスイッチがすでに…

依子(2) 捜査(31)

依子は再びバイクを走らせた。首都高の都心環状線に入ると上空を旋回するヘリコプターの数が目立つようになった。そのまま湾岸線方向へ向かうと、やがて高速沿いにそのビルが姿を現した。栗本重工業本社ビル周辺は今やまるでヘルコプターの編隊に攻撃されて…

依子(2) 捜査(30)

男たちは5人いた。調整池の堤防に立ち、1列に並び、バイクに乗った依子を見下ろすように立っていた。奇妙だったのは彼らの釣り人ふうに装った変装の仕方だった。帽子やサングラスや釣り竿からその服装まで、どれも新品らしく、寸法もあまり合っていない上…

依子(2) 捜査(29)

依子がバイクにまたがってから、胸で携帯が振動したのと遊歩道の通行人がぱったりと止んだのに気づいたのがほとんど同時だった。依子の胸で振動するバイブレーターの音さえも響くように周囲は静まり返っていた。この静寂はまるで編集前のフィルムのようだと…

依子(2) 捜査(28)

若い男は部屋の奥から依子の前に再び姿を現した。「これも多分前の人の忘れものです。クローゼット片づけた時に見つけたんすよ」そう言いながら差し出した男の手に文庫本2冊が持たれていた。依子は何も言わず受け取った。「伝言入れただけだったんで取りに…

依子(2) 捜査(27)

女優の介護士「柏木和美」の住所は、高速からインターを降りて直ぐ近くの大きな川の畔に立っている木造2階建てのアパートだった。アパートの裏には川の増水を抑えるための大きな調整池があり、その池の畔には平日の朝だというのに釣り人が数人立っているのが…

依子(2) 捜査(26)

サミュエル・クレメンズは、ミズーリ州ハンニバルで1962年の10月に生まれた。 観光用の蒸気船で働く父ジョンと酒屋で働く母ジェーンとの間に6人兄弟の5番目として。理科や数学が得意で「将来は外洋で航行するような大型船を設計することが夢」と小学…

依子(2) 捜査(25)

その白髪の白人の男はゆっくりと車のフロントを回り、依子に近寄ると店舗前の監視カメラを覗き込んだ。ふん、と鼻で笑って、また依子を見た。「バイクとは。驚きましたよ。さて、あなたとお話しできるようになるには、どうしたものかと考えていたんです。 ゆ…

依子(2) 捜査(24)

通りを曲がり、やがて国道に出ると、まだ早朝だというのに車の数は格段に多くなった。 キャデラックは5台ほど間に挟んでついて来ていた。 品川ナンバーをつけていたが所詮それが本物かどうかも分からない。 依子は他の車にも注意を払っていた。 自分のバイ…

依子(2) 捜査(23) 

それから1時間程度で目白依子の荷造りは済んでしまった。やや大型のボストンバック1つに洋服を詰め込むとそれで終わりだった。家具はほとんどマンションの備え付けだった。靴は履きなれたパンプス1足とブーツを残して捨ててしまった。荷造りが終わると、窓…

依子(2) 捜査(22) 8mm版について語られたこと

8mm版の映画には、その女の子の他にも、監督の高間君も、その栗本の御曹司も出演していました。これも当時の学生映画では定番のスタイルでしたね。何しろ役者さんを雇える訳ではないから自分たちでメーキャップして役者も兼ねて出演するんだよ。高間君は「大…

依子(2) 捜査(21)

部屋に帰るともう時間は午前0時前だった。 依子はバックから携帯を取り出すと、いつものように電話の横の充電器に収めた。部屋の隅の机の上に置かれていたPCを開くと、電源を入れ、装置の脇に高間から受け取ったDVDを差し込む。 かすかなモータ音を立…

依子(2) 捜査(20)

依子が近づいて行くと、高間真一はコートの内から白い封筒を取り出した。 依子が目の前に立つと、目を伏せて、片手に持ったその封筒を差し出した。白石さんからご自宅を伺いまして。車で近くを通る予定だったものですから。ここで待つように、と言われました…

依子(2) 捜査(19)

目白依子は帰宅中の地下鉄で揺られる間、うたた寝をして、目的の駅で目を覚ますと、急いで立ち、ドアが閉まる瞬間にすり抜けるようにホームに降りた。また私はあの夢を見ていたに違いない。その感覚は頭の後ろの方に残っていた。依子は周囲の人並みに歩調を…

依子(2) 捜査(18)

白石探偵事務所の机の上に置かれた電話が鳴った。 白石が受話器を上げ、そのまま拡声モードに切り替えた。「もしもォーし!、白石さァん、依子さァーん!、聞こえますかぁ?」持倉の声だ。疲れきっている上に呂律がよくまわらない。「もうこの時間で三軒目で…

依子(2) 捜査(17)

汐留から車で移動するのであれば、その株式会社デジタルイマジンまでは目と鼻の先だった。海岸通りに出てわずかに南へ走れば直ぐに品川に着く。旧海岸通りからJR品川駅の港南口へ抜ける途中の雑居ビルの2Fに「株式会社デジタルイマジン」とそっけない四角…

まとめ。

今までの経緯をパブーにまとめてみました。映画女優ねじ巻依子の冒険 #酷い題名だねしかしで検索すると出てくるかと思われます。なかなか面白いシステムですね。活字版ようつべぽい。手軽だし。

依子(2) 捜査(16)

介護士の柏木和美を派遣した在宅介護斡旋会社に電話を入れてみると、数分待たされた挙句、柏木和美は1週間前に一身上の都合で退職致しました、という返事だった。どうしても、実は世話になった身内のお礼をしたいので、と、食い下がり、介護士の自宅の電話…