依子(2)脱出(2)
そんなふうに柏木和美の言葉を頭の中で反芻しながら、
頭に被せられた超伝導量子干渉計の感触は依子がかつて「塔」の中で被った「ブレインストーム端末」を嫌でも思い出させた。
その装置は、確か英樹がそう名付けた。SF映画に出てきた小道具の名前のはずだった。
「被った者の記憶を他人に伝達するヘルメット型マシンだ。」映画を観ていなかった依子に説明したのは、さて英樹のほうだったか、真一のほうだったのか。
(あの二人はいつも同じ映画を観ていた。いったい「伝達」する必要なんてあったのかしら・・・?)
彼らが「塔」の使い方を知ってから、自分たちの映画の構想をブレインストーム端末で「共有」することを試すようになるまで、ほんのわずかな時間しかかからなかった。
「過去の自分と干渉して重なり合うこと。」
その結果がどうあれ、もし自在にそれが出来るのであれば試して見ることに問題はないように思われた。
依子が静かに瞼を閉じようとした時、部屋に微かな電子音が響いた。
ドアの呼び出しチャイム音のようだった。
背中を向けていた柏木和美が、椅子から立ち上がる姿が見えた。