2014-01-01から1年間の記事一覧

依子(2) 捜査(15)

最後に女優の介護をしていた柏木和美の連絡先を聞くと2人の探偵はその部屋を辞した。帰りのエレベータの中では持倉がため息とともに言った。映画のフィルムがまだ残っていると思いますか? 闇から闇に処分するのが犯行の目的だとしたら、もうフィルムは残っ…

依子(2) 捜査(14)

ああ「道」ですか。それではジェルソミーナとザンパノか。持倉がぼそりと呟いた。映画にお詳しいんですね。加瀬の声が驚いたように少しなね上がった。いやまあ。と持倉が少し照れたように応じる。昔、その映画をお芝居にアレンジして上演したことがあるんで…

依子(2) 捜査(13)

ドアはインターホンのカメラに顔を向ければ顔認証キーで自動的に解錠されます。 加瀬由香里は玄関に二人の探偵を通しながら説明した。 玄関に入るとかすかに消毒薬の匂いがした。顔認証が登録されているのは、私が知っているだけで、先生と旦那さん、先生の…

依子(2) 捜査(12)

待っていた相手は時間きっかりに現れた。「オーロラプロダクションの加瀬由香里」と名乗ったその女性は小柄ではあったが聡明そうな茶色の目で相手をまっすぐに見た。 年齢は30代前半と言ったところか。 紺のジャケットに黒いスラックス、そして踵の低い機…

依子(2) 捜査(11)

ココからアレが、こうして眺められる位置にあるというのは偶然とは思えませんなあ。どう考えるべきでしょうね。持倉が声をひそめてそう言った。目白依子と持倉は、案内された窓際の席に腰を下ろすと、再び前方の彼方にひときわ抜き出て銀色に輝く「π」のマー…

依子(2) 捜査(10)

振動も音もないエレベーターは、2人の探偵を地上100メートルまで運ぶと軽快な音を合図にドアを開いた。その先には180度に展開した東京のランドスケープが広がっていた。地平線には、剣山のように高層ビルが並んでいる。 その中から長い舌のような高速道路が…

依子(2) 捜査(9)

車の窓ガラスをコツコツと叩く音がした。持倉が顔を上げると、シンプルな白いブラウスに、黒地に縦のストライブが入ったスーツに着替えた依子が立っている。 サングラスは外し、メタルフレームの眼鏡に変えていた。グラスには、ほのかに紫色のカラーが入って…