2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

依子(1)−7  水晶の塔

結局、依子が隆三を連れて、2人で「水晶の塔」へ入ることになった。さすがに幸恵も、依子一人に頼むのは気が引けて、最初は依子の申し出を断ったものの、 大人の入場料金が、映画のロードショー料金とさほど変わらないのを見ると、さすがに隆三への付き添い…

依子(1)−6

日が暮れると、町には笹子峠からの吹き下ろしの風が吹き、それがこの土地の熱をすっかり奪い取っていく。この昼と夜との寒暖の差の激しさは、葡萄の育成の地にはなくてはならないものだったが。冷気がひっそりと降りてきて、依子はぶるっと身を震わせた。そ…

依子(1)−5  水晶の塔

依子のいる矢島の家は、勝沼町の葡萄畑の広がる山間にあった。 その山側から、南に向かってなだらかに下ると、やがて大きな国道にぶつかる。 その国道を挟んで東西に勝沼町の中心街が広がっていた。 もっとも、中心街と言っても、目立つ建物は学校と大きな公…

依子(1)−4

矢島家の向かいにある機織機のある小さな工場は、がったんがったんと毎日忙しくリズムを刻んだが、昼休みにはしんとして、ひときわ静かになり、遠くからは鳥の声が聞こえた。矢島家の昼食は賑やかで、機織工場で働く職人たち-と言っても近所に住むおばさん達…

依子(1)−3

ぷぅぅーん。ぶるん、ぶるん。飛行機のプロペラ音が、穏やかに晴れた空に響いた。あれは、富士山の観光用のセスナ機かもしれない。依子のいる、矢島家の2階の部屋の窓からも、富士山が見えた。5月の富士は、頂きから中腹まで雪をのせ、その山体のなだらか…

魔王ー1

水晶の塔。 知恵の木。 葡萄の黄泉。 大富豪の鼠。 栗本重工業。 ねじ巻依子。 依子の記録した内容は、バージニア州アーリントン郡にあるペンタゴンに送られた。そこで、グレープシティ内のあるルーチンで自動的に選別されると、 特別な符号が付けられて、 …