2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

キャスティング(1)

窓から差し込む朝日が顔を照り付けて目が覚めた。いつの間にか眠ってしまったようだ。机の上は散乱したノートやレポート用紙の切れ端で埋まっていた。自分の頭が載っていたと思しき部分がくしゃくしゃになっていた。妙な夢を見ていた。時計を見ると、もう9時…

シナリオ作成(17)

僕は丘の頂のなだらかな平野を、崩壊した建物跡を横目に、さらにその奥へと進んだ。丘の裏側は、甲府市街に背を向けて、深い森へ、上日川峠へ向いている。その彼方には大菩薩峠があり、それからさらに先は奥秩父へと続く森林地帯だ。「葡萄畑」があるとした…

シナリオ作成(16)

建物の門前をライターの明りで照らしてみると「日川診療所」という看板が掛っていた。その周りも黒く焦げて文字を判読するのもやっとだった。「ヒカワ診療所、ヒカワ・・・」ライターで照らされた文字を、そう言葉にして呟いてみると、ふと何か記憶の底から…

シナリオ作成(15)

変な女。一言でいえば、それが目白依子に対する僕の印象だった。僕はやがてお祭りの賑わいから離れて、人気の途絶えた街灯もない田舎の夜道を、駅へと戻りながら目白依子との会話を頭の中で反芻していた。 結局「作家」と言うのは「あんなふう」なものなのだ…

シナリオ作成(14)

「書きません」と目白依子は答えた。「その必要はもうありませんから」と。その眼はなんだか怒っているように僕の手元を睨みつけていた。その視線に気づいてそれで漸く僕は自分が無意識のうちに煙草を取り出して火をつけているこに気づいた。マズイ。僕は吸…

シナリオ作成(13)

突然、また強い夜風が吹きつけて「巨大迷路」の壁面沿いに並んだ提灯を一度に揺らした。初夏とはいえ暦の上ではまだ5月だった。峠からの吹き下ろしの風。それがこの土地の熱をすっかり奪い取っていく。冷気が通り過ぎると、目白依子は、隣で足を組んで、ポ…

シナリオ作成(12)

「ひとりなんですか。」「そちらも?」「英樹は、 栗本はもう帰りました。 その隣は空いてるのかな?」「ああ、大丈夫。 どうぞ。 子供たちと、幸ちゃん、 矢島さんはその迷路の中です。まだ。」「迷路の中か。 」 「そうだ。 小説を読ませていただきました…