依子(2) 捜査(30)
男たちは5人いた。調整池の堤防に立ち、1列に並び、バイクに乗った依子を見下ろすように立っていた。
奇妙だったのは彼らの釣り人ふうに装った変装の仕方だった。
帽子やサングラスや釣り竿からその服装まで、どれも新品らしく、寸法もあまり合っていない上に、どう見てもチグハグな上下の色合わせで似合っていない。
まるで西洋風のマネキン人形が浴衣を着て並んで立っているデパートの売り場のようだった。
真中に居た一人の男が先頭に立ち依子の前へ進み出た。
やせ細った顔に眼鏡をかけていて、その容姿は誠実さが売りのTVのアナウンサーを思わせた。ぶかぶかの青い野球帽を被っていた。
「・・・私に何か用かしら?」依子は携帯を耳につけたまま男に訪ねた。「はぁ? ・・・今なんて言いました、依子さん?」携帯の向こうで持倉が言った。
やがて恐る恐るというように男は言葉を発した。「私たちは柏木和美の仲間です。あなたを待っていた。」
男は依子の耳元を指差した。「携帯の電源を切って頂けますか? その携帯から、あなたの位置情報が傍受されています」
依子は少し間を置いて、携帯を耳から離し電源を切った。
「これで安全かしら?」
男はさらに一歩依子に歩み寄った。ジャケットの胸ポケットに手を入れた。依子は少し身構えた。
「私たちはみな唯のサラリーマンなんです」男がポケットから取り出したのは名刺だった。「悪いが、あなたの安全のためではない」
男はその名刺を依子に差し出した。男はもう少しでお辞儀をするところだった。
名刺には「栗本重工業株式会社 基礎技術研究所要素開発局 主任 佐々木誠」とあった。
「こうなってしまって残念ですが、しばらく高間さんには近づけない。柏木さんのところまでお連れします。そのバイクで移動されるのでしたら先導しますが・・・」
「そんなふうに行列を作っていたら人工衛星から傍受されないかしら?」
男は目を大きく開いて、空を見上げた。
依子はバイクのエンジンをかけた。
「有明のマンションでしょう?。あの向かい側の部屋?」
男はあわてて飛びのいた。
「ど、どこからその情報を?」
依子はヘルメットを被り、自分の頭をトントンと指差した。
「鍵も持っている。危険だから今日はもう解散しなさい。必要ならこちらから連絡します」
依子は再びバイクを走らせた。