2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

映画の製作(2) シナリオ作成(2)

この季節にどこかでお祭りをやっているようだ。 すると遠くに聞こえる祭囃子に急き立てられるかのように彼女達の歩調が早まった。それは祭りに急ぐようでも、祭りから逃げているようにも思えた。 その日訪れた矢島幸恵の家は僕には新鮮な驚きに溢れていた。…

映画の製作(2) シナリオ作成(1)

その頃、つまり高校三年の春、僕の家族は勝沼町からは笛吹川という名前の大きな川を越えた西側の町に住んでいた。 田舎町ではそんな風に1つ川を越えると、まるで別世界のようにそれぞれの生活圏が別れたものだ。 それで僕には同じ町に育ったはずの栗本英樹…

映画の製作(1) 原作交渉(2)

僕たちが注文したコーヒーが運ばれてきてテーブルに置かれた。 2人の女の子は前から置かれていたレモンスカッシュをストローで一口飲んだ。その少し間が空いた後、「高間君、ヨリちゃんが書いたあの話は私も読んでいる。」そう言ったのは矢島幸恵だった。「…

映画の製作(1) 原作交渉(1)

パスケースの生徒手帳の学校名には「立川高校」とあった。定期は「国立〜立川」間だった。「目白」という性はこちらでは聞きなじみがなかったから、地元出身ではないのだろうとは思ってはいた。同級生を装いその手帳に記載された自宅に電話してみると、落ち…

高間真一(4)

物語の題名は「ねじ巻人形の冒険」と書かれていた。"天上には銀色の影をした結び目が保管されていてそれが解かれると天界が回転を始めた。" そんな文章で物語は始まっていた。"次に鼠たちが騒ぎはじめた。水晶の塔に黄泉の影があらわれた。ねじ巻人形を連れ…

高間真一(3)

あの日のことは今でも良く覚えている。僕と英樹は、5月の連休を利用して映画で撮りたい風景を探し歩いて、しかし大した収穫もなくいつもの坂道に戻ってきた所だった。坂道から脇に外れた菜の花が咲いているなだらかな斜面に寝転んでいた。僕たちは自分達の…

高間真一(2)

僕と英樹2人の共通の趣味と言えば「映画」だった。 結局2人ともそれだけ孤独だったんだろう。映画は1人でも楽しむことが出来る。僕たちが高校生だった頃、甲府の名画座では「明日に向かって撃て!」だとか「マッシュ」それに「時計仕掛けのオレンジ」をや…

高間真一(1)

あれはまるで葡萄の魔王ね、と、依子が言った。葡萄の魔王で,名前はサミュエル、アダムが食べた葡萄の木を植えたのよ。目的の谷底まで来ると、もう月明かりさえ届かない暗闇で、ぼくたちは用意していた懐中電灯で獣道をすすんだ。そして、その場所についた…