2015-12-01から1ヶ月間の記事一覧
部屋の中でピアノの曲が流れていた。枯れ葉が1枚1枚落ちる音のような独特の曲だった。エリック・サティの曲だ。依子はその曲が使われた古いフランス映画を見たことがあった。ピアノの曲が突然途切れた。それでそのピアノが誰かが演奏していたことが分かっ…
依子はエレベータに向かった。依子がエレベータに 乗り込んだ時、中には一人の男がいた。その男は地下駐車場から乗ってきたに違いなかった。乗り込む間、ドア「開」のスイッチを押していた。依子は軽く会釈した。依子が乗り込み「30F」のスイッチがすでに…
依子は再びバイクを走らせた。首都高の都心環状線に入ると上空を旋回するヘリコプターの数が目立つようになった。そのまま湾岸線方向へ向かうと、やがて高速沿いにそのビルが姿を現した。栗本重工業本社ビル周辺は今やまるでヘルコプターの編隊に攻撃されて…
男たちは5人いた。調整池の堤防に立ち、1列に並び、バイクに乗った依子を見下ろすように立っていた。奇妙だったのは彼らの釣り人ふうに装った変装の仕方だった。帽子やサングラスや釣り竿からその服装まで、どれも新品らしく、寸法もあまり合っていない上…
依子がバイクにまたがってから、胸で携帯が振動したのと遊歩道の通行人がぱったりと止んだのに気づいたのがほとんど同時だった。依子の胸で振動するバイブレーターの音さえも響くように周囲は静まり返っていた。この静寂はまるで編集前のフィルムのようだと…
若い男は部屋の奥から依子の前に再び姿を現した。「これも多分前の人の忘れものです。クローゼット片づけた時に見つけたんすよ」そう言いながら差し出した男の手に文庫本2冊が持たれていた。依子は何も言わず受け取った。「伝言入れただけだったんで取りに…
女優の介護士「柏木和美」の住所は、高速からインターを降りて直ぐ近くの大きな川の畔に立っている木造2階建てのアパートだった。アパートの裏には川の増水を抑えるための大きな調整池があり、その池の畔には平日の朝だというのに釣り人が数人立っているのが…