2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

依子(3)−5

あの狸。なぁにが追加情報だ。サラがブツブツと言った。自衛隊が移動車両と補助要員を都合しているわすかの間、彼らは2班に分かれて宿舎に用意された休憩室で待機していた。サラと同じ班なのは内心閉口したが、この件に関しては、依子も同感ではあった。作…

依子(3)−4

「続けて本作戦の今後の手順です。」日下国際活動隊隊長の説明が続いた。「マギー・フィッツジェラルド中尉率いるブレインストーム情報小隊7名は、これより、第一目的地として、そこ御殿場の駒門駐屯地から、富士の向こう側--山梨県忍野村にある陸上自衛隊「…

依子(3)−3

駐屯地司令勤務隊舎に向かう道には、ビニール製のトンネル型屋外通路が臨時に設営されていて、 そこに入ると依子たちは防護用のマスクを顔からは外すことができた。 ストームの隊員たちが皆防護装備を外して、顔を出すと、案内役の自衛官達ははちょっと驚い…

依子(3)−2 日本上陸までの経緯

依子たちの前に現れた陸上自衛隊駒門駐屯地は、まるで、吹雪の中の建物のようだった。 だが雪とは違い火山灰は溶けて流れることはしない。 建屋の屋根に積もった灰は雨を吸い込むと石膏のようにすべてのものを包んだまま固まりはじめ、いづれ中身を押しつぶ…

依子(2)−3

その日の夜. 目白依子のマンションの1階には、コンビニがあり、彼女はその袋を抱えて、4Fでエレベータを降りた。自分の部屋のドアを開けると、1LDKの暗い部屋の中で、一番奥にある電話の留守録のランプだけが灯っていた。部屋の電気をつけ、コンビニ…

依子(2)−2 +ねじ巻依子略歴

白石探偵事務所の所長は白石義男と言う名前だった。 55歳だった。 大学時代からずっと東京に住んだが、関西出身であり今でも頑固に関西弁で喋った。 体は細身で、その目も細く、いつも黒淵の眼鏡を掛け、喋る時にはさらに目を細めたので、何を考えているのか…

依子(1)−2

若先生、妙だったね。笑わないで。幸恵は、なんだか不満そうに口を尖らせていた。 丘の上の病院の若先生は、依子の傷口を見て、からかわれたと思ったのかもしれない。 幸恵ちゃん、ごめんね。と言うと、なんでえ?と幸恵はことさらに大きな声で笑った。丘の…

依子(3)−1

吹き上げられた噴煙が火山雷を呼び、その光は富士の裾野の山肌から地上に平行に走っていた。 まるで光る強大な蛇が裾野のあちこしでのた打ち回っているようだ。 なだらかな裾野のせいで火口からの溶岩は大きな赤い海のように広がっていたが、その流れの速度…

依子(2)−1

目白依子の顔は小さく、ちょっと子供のようなふくれたような頬をしていた。年齢は46歳だった。 髪型は、ほとんどの場合ショートボブで、今まで髪の色を染めたこともなかったが髪には白髪らしきものはなかった。 目は茶色で、光が反射すると、たまに緑色に…

依子(1)−1

依子が襖を開けると、そこには、大きな三毛猫を両手に抱いた男の子が立っていた。 男の子も、猫も、目を丸くして血で染まった依子の右手に釘受けになった。 その背後から、まぁ!と大きな声が響くと、声の主がバタバと階段を駆け上がってきた。 やはり叔母の…