依子(3)−4

「続けて本作戦の今後の手順です。」日下国際活動隊隊長の説明が続いた。

「マギー・フィッツジェラルド中尉率いるブレインストーム情報小隊7名は、これより、第一目的地として、そこ御殿場の駒門駐屯地から、富士の向こう側--山梨県忍野村にある陸上自衛隊「北富士駐屯地」に向かいます」

「途中、「富士学校」のある須走インター付近までは、駒門駐屯地の特殊車両で移動します。「富士学校」から、忍野村までですが、火山灰と、雁坂トンネル崩落のため、一般道は通行不能です。従って「富士学校」から富士演習場内を移動することになります」

「また、「富士学校」からの移動のため、訓練用に配備されている10式戦車を3台、使用する予定です。」

会議室がざわついた。

皆の視線が6人の女性兵士に注がれる。

「さて、第一目的地の山梨県忍野村「北富士駐屯地」の状況ですが」

「ここに駐屯していた特科部隊第1特科隊、第1後方支援連隊とも、噴火前より、現在まで、小田原で災害派遣任務についております。
その後、噴火の影響でほとんど建屋機能がマヒしてしまったため、現在、地区警務隊員10名のみが残り、近郊の災害対策に当たっております。
まぁ、残り10名しかおりませんので、実質的には駐屯地の留守番です」

忍野村付近住民は、約80%がすでに安全指定地域へ避難済みです。

忍野村には、栗本重工業の山梨工場があり、ここの社員が現在でも残っている程度です。これには理由があります。

今回の作戦で使用する、情報通信のための中継無線アンテナ設備を栗本重工業に用意してもらっています。」

「現在の、裾野に投下されている米軍製耐性ポッドによる中継衛星回線では、富士の向こう側、山梨方面地域での通信可能範囲が非常に限られてしまうためです」

「ブレインストーム情報小隊7名は、忍野村の栗本重工業の山梨工場で、特殊通信設備の通信テストの後、河口湖から御坂峠を越え甲府南駅に向かいます」

「上村陸佐、後ほど、ブレインストーム情報小隊に作戦補佐のための自衛隊隊員を選任してください。宜しくお願いします」

「日下からは、以上です」

アメリカ軍海兵隊ブレインストーム情報部隊隊長 サミュエル・クレメンズ大佐に変わります」

画面が再度切り替わった。

今度は相模湾沖に停泊している米軍空母の作戦司令室だった。
綿毛のような豊かな白髪を伸ばしたまま梳かしもせず、口髭をたたえたクレメンズ大佐は、軍の関係者というより、大学教授か研究者のように見えた。

「クレメンズだ。申し訳ないが、ここで自衛隊関係者は席を外して頂きたい」

画面に顔を出したクレメンズ隊長は、いつも通り余計な前置きなしで喋りだした。

再び、会議室がざわついた。

無理もない。

彼らにとってはよほどの屈辱だろう。しかし、しばらく後には彼らは席を立ち、

後には7人の隊員だけが残された。

「さてマギー、追加情報があるのだ。"鼠"がまた現れたのだ」

「"大富豪の鼠"とか言う奴ですか?」

「そうだ」

「場所は?」

「新潟の難民キャンプ。拿捕した暴動の首謀者達から先ほど日本の公安警察が引き出した情報だ」

「鼠」、または、「大富豪の鼠」と呼ばれる男。

その男が、日本海側難民キャンプ、及び反政府勢力を指揮し、数々のテロを企てた無政府主義者と目されていた。

民間人らしい、という情報の他、米軍側には限られた情報しか伝わっていなかった。

「そのテロリストと今回の作戦との関係は?」

「奴は、"富士を見に行く"、と言っていたそうだ」

「諸君はくれぐれも日本国民及び難民キャンプ住民の感情を逆なでしてはならん。「ニンジャ」のように隠密に行動するのだ。移動の用意が出来次第、引き続き作戦行動を継続するように。
"鼠"の件では、ひょっとしたら、君たちに、"本来の活動"を行ってもらうことになるかもしれん」

サミュエル・クレメンズ大佐はそう言って会見を終了した。

本来の活動。

自衛隊と同様、アメリカ軍海兵隊所属のブレインストーム情報部隊も、災害対策のための部隊ではなかった。

戦闘状況下の諜報活動。

それが、ブレインストーム情報部隊の「本来の活動」だった。