依子(2)−3

その日の夜.
目白依子のマンションの1階には、コンビニがあり、彼女はその袋を抱えて、4Fでエレベータを降りた。

自分の部屋のドアを開けると、1LDKの暗い部屋の中で、一番奥にある電話の留守録のランプだけが灯っていた。

部屋の電気をつけ、コンビニの袋をキッチンに置くと、上着を脱ぎながら留守録を押す。

信販売の勧誘と、電話会社からの回線切替の案内のみで、留守録は切れた。

ポケットから携帯を取り出し、電話の横の充電器に収めた。

時計を見ると、10時を回っていた。窓のカーテンを開け、暗く街灯が灯るだけの下の通りを一度見下ろすと、また閉めた。

バスルームに行き、服をすべて脱ぎ、シャワーを浴びた。

やがて髪を拭きながら、ガウンを着てバスルームから出てきた。

そのまま台所に行き、コンビニの袋を開けると、中から4分の1にカットされた西瓜が出てきた。
包丁を取り出し、西瓜を2つに切り、半分はラップをかけて冷蔵庫に押し込む。

残った西瓜をさらに2つに切り、その半分を3つに細かく切り分けると、ガラスの容器に入れて台所のテーブルに置いた。

1つづつ丁寧に食べていった。

電話を見た。

電話と携帯電話は並んで依子の視線の先で沈黙していた。

3つの西瓜をすべて食べきってしまうと、髪を乾かすために寝室に移動した。

髪が乾くと、下着をつけ、スウェットの上下を身につけた。

台所には、先ほど切り分けた西瓜の半分が、まな板の上に残っていた。
残った西瓜を、今度は細かくブロック型に切り分けた。
それをまた先ほどのガラス容器の中に入れた。
TVの前に移動して、TVをつけた。
ニュースが流れていた。

ブロック型の細かい西瓜を1つづつ口に入れながらしばらくTVを見ていた。

やがて、12時近くなると、部屋の電気を消して、寝室に移動した。
寝室とのドアは開けておいた。
ドアを開けておくと、ベッドの中からは、リビングの2つならんだ電話機が見えた。
寝室の明かりをつけたままベットに横になった。

リビングの電話と携帯電話は、並んで、依子の視線の先で沈黙していた。

依子は、ベッドに横になったまま、ふと、高間と言います、と低い声を出した。低い声ではあるが、高間の声には似ていなかった。

申し訳ありませんが、中には依子様お一人だけに来てほしいということです。と今度は言った。

やはり少しも高間の声には似ていなかった。

なかなか眠れなかった。

結局、朝まで眠れなかった。