依子(2) 捜査(10)

振動も音もないエレベーターは、2人の探偵を地上100メートルまで運ぶと軽快な音を合図にドアを開いた。

その先には180度に展開した東京のランドスケープが広がっていた。

地平線には、剣山のように高層ビルが並んでいる。
その中から長い舌のような高速道路が手前まで伸びてきて、巨大な銀の匙を思われる曲線に接続されると、海を渡り、唐突に螺旋を描いて地上の平面に虫のような車の集団を吐き出している。

ロココの庭園を思わせる人口の緑地が整然と手前には広がっている。噴水のまわりには、人々が群がっている。
浜辺に建つ人の頭部を思わせる球体を掲げたようなデザインのTV局のビルが、ここからはひざまずいた巨人のように見える。
空は突き抜けるような青一色で、遠近感を無視した壁紙のようだった。

この景色はどこかで見たことがある。
依子はぼんやりと考えた。
この、どこかでバランスを失ってしまったような楽園の景色を。
いや、あれは絵画だった。
オランダかどこかの教会の壁画だったか。
「快楽の園」と名前がついていた。

息を飲んだような気配を感じて、依子は持倉が指差した彼方に目を凝らした。

再び「π」の文字を掲げたビルが表れていた。
まるで見張塔からずっと眺めるかのように、
2人の探偵はしばらく、声もなく、その姿を見ていた。