キャスティング(5)
我にかえった時には、僕はタライに一杯の中性洗剤溶液にしゃがみ込んでいた。
背後のタライの中に尻もちをついたらしい。
おまけに頭からかけられた水のせいで全身ぐっしょりだった。
タライの中で、ホースからの水が止まったのが僕の尻の辺りの感触で分かった。
矢島幸恵があらわれて言った。
「まあ、どうした! どうした? いったい, ああー、ああ、あはは、あっ、あひゃひゃひゃひゃ」
僕を見下ろす目白依子は、いつの間にか顔のマスクを外していた。
「大丈夫。足がすべっただけで怪我はないみたい。」
と目白依子は答えた。
「まだ朝ですが、お風呂沸かしますか。」
まだ笑いがおさまらないまま涙目の矢島幸恵が言った。
「せっかく綺麗になったんだから。洗剤で。あはは、」