キャスティング(3)
矢島幸恵は深緑色のロングスカートのポケットから一枚の紙を取り出した。
それは4つに折られた原稿用紙で、彼女は丁寧にそれを広げた。そして声を出して読み上げた。
1.県立甲府南高校は今年4月で創立100周年を迎えた。
2.ついては今年度の文化祭(11月実施)では、いろいろな100周年記念イベントが予定されている。
3.有志達による「8ミリ映画製作」もその1つである。
4.映画の内容は「楽しいミュージカルファンタジー(コメディ)」です。
4.映画には子供たちが大勢で「かわいい子鼠ダンス」を踊るシーンがある。
5.撮影場所は勝沼町近郊を予定。撮影期間は子供たちの夏休みに行いたいと考えている。
6.ついては出演者たる子供達を随時募集中。
連絡先は甲府南高校生徒会副会長:矢島幸恵宅まで。
7.ご協力いただく方々に「使用済、鯉のぼりの洗濯」を無償で行います。
これは、お子様が出演されるかどうかにかかわらず、希望される方々には出来る限り行います。
これは、県立甲府南高校生徒会主催のボランティアです。
8.映画はまだ企画段階のものです。場合によっては中止となる可能性もあります。
読み上げた後に、その原稿用紙は、矢島幸恵から僕へ、僕から英樹へ、そして英樹から目白依子へと静かにリレーされた。
原稿用紙の左上の隅には、目白依子の母親の出版社の社名が印刷されていた。
そうしてその原稿はおそらく作者の元に戻っていったわけだ。
目白依子は無言でそれを受け取った。
「大まかには、その線で。連休明けから宜しくお願いします。」
そう告げたのは、矢島幸恵の大きく張った声だった。
「正式通知は連休明けに、生徒会から勝沼町役場に正式配布の予定。」