依子(2) 捜査(6) 目白依子

助手席にはサングラスをしたまま車の窓からその街並みを眺めている依子がいる。
持倉は、依子の過去はよく知らない。直接彼女に聞いたことがなかった。
持倉が以前勤めていた大阪の大手興信所から、東京で探偵事務所を構えた白石を紹介された時、
すでに白石探偵事務所の調査員として依子はそこで働いていたからだ。

ただ彼女は元々は名の通った保険会社のエリート社員だったという話を年配のパート相談員から聞いたことがあった。依子はそこで投資信託関連の業務を担当していたらしい、という話だった。
バブルの全盛期の時代だったのだろう。

しかしそのバブル崩壊以降、例によってその部門が閉鎖になると依子は社内の事故調査部門に異動されたそうだ。そしてその部門で働くうちに、その会社から委託されて保険事故調査を請け負っていた白石と会ったらしい。

その後、依子はその保険会社から突然白石探偵事務所へ出向させられ、探偵事務所で働き始めることになる。
キャリア女性社員へのそうした無茶苦茶な降格異動の仕打ちは仕事を取り上げ給料を下げ退職に追い込む常套手順のように思える。
白石はと言えば、それらの取引の見返りとして保険会社からの大量の調査案件を請け負っていたらしい。
バブルがはじけた後には、いくらでもその類の仕事はあった。

依子のような立場に立たされれば、普通であれば、自分のキャリアとは畑違いもはなはだしい探偵事務所の事務員として、数年酷使された後、退職の道を選ぶに違いない。

ところが驚いたことに、依子は事務員どこころか、事件調査員として、抜群の能力を発揮したのだった。
彼女の冷静さと観察眼の鋭さと持って生まれた勘の良さ、なによりも当時には珍しい金融知識に詳しい女性調査員であること自体が大きな武器となった。

白石今でもはこの頃のことを・・・魔法の原石を発掘したような驚きを語ることがあった。