「映画女優・ねじ巻依子の冒険」

morinoseikatu2012-04-21

大地の脈拍が大きく歪んだかと思うと
葡萄の魔王の大きな笑い声が聞こえた気がした。
[まようことはない]と葡萄の魔王が囁いた。
やつの姿は、
まるで古代の鴉のよう

丘の葡萄畑を覆う影は、まるで夜の羽のようだ



その時、なぜかおれは
三人であの坂を下ってきた日のことを思い出していた。
おれたちはその坂を「ジェルミーナの坂」と呼んでいた。
有名なイタリア映画に出てくる坂に似ているから,と依子が名付けた。
そこが始まりだった。



水晶の振動が大きく歪んだかと思うと、
葡萄の魔王の大きな手のひらが二人をつつんだ。
[ひきかえすことはない]と葡萄の魔王が囁いた。
やつの住処は、
谷底に沈んでいた水晶の船だ

信号の振動が歪むせいで、元通りに戻れない。


その時、なぜかおれは
三人であの坂を下ってきた日のことを思い出していた。
おれたちはその坂を「ジェルミーナの坂」と呼んでいた。
映画のフィルムのようにいつかモノクロになるから,と、高間は笑っていた。
そこが始まりだった。



あの日はお祭りの提灯が駅の構内で揺れていた。
夏だったと思う。
[やくそくをおもいだせ]と葡萄の魔王が囁いた
やつ指先が、
おれの額をつきさした
やつの葡萄を盗んだから、三人の時間は終わったんだ。


その時、なぜかおれは
三人であの坂を下ってきた日のことを思い出していた。
おれたちはその坂を「ジェルミーナの坂」と呼んでいた。
この坂はイタリアよりももっと先まで行けるはず,とおれは思っていた。

こんなふうに眠れない夜には 
あの太鼓の音が今でも聞こえるのか

そこからどれだけ遠く
どれだけ遠くまで